2015年2月3日

 コートの左ポケットには四枚、飴の包み紙が入っていた。指の触れたところからビニールの擦れる乾いた音がした。彼女はわたしの話なんて一つも聞いていなかった。テーブルの下でスカートの裾をたくし上げ、綺麗に磨かれた爪を白い太腿に突き立て、赤い血を流している。それくらいは分かっていた。わたしは話すのをよした。一度だけ彼女に向かって微笑み、かばんの中から咳止めの錠剤を出し、水を使わずに飲み込んだ。副作用の眠気はじきにやって来た。眠りに落ちる直前、あるいは眠りに落ちた直後、破れた薄膜の向こう側からコーヒーの香りがした。後悔は夜に訪れるのだ。一つ目の飴が口の中で溶けたとき、彼女は百年前の雪原で、すべての血を失っていた。