「祝祭日のテーマ」
俺はマルボーロに火をつけて食べた。
駅前の寿司屋から女が叫びながら出て来て
パトカーのサイレン、狂騒が
からからに乾からびてぱりぱり
剥がれ落ちていった。
コカ・コーラの自販機
の隣にコンドームの自販機
の隣にポップコーンの自販機
が置いてあって俺は、ますます
マルボーロに火をつけて
ますますマルボーロに火を
マルボーロ、火をますます、マルボーロ、につけて
食べる、火をマルボーロに食べる火を、つけてマルボーロ。
風呂屋でルー・リードが歌っていたんだ。
歯を磨きながらそれを聴いていたんだ。
あしたもう間に合わないから俺は
歯を磨きながらルー・リードについて考えていたんだ。
誰かがどんどん透明になっていく中で
洗われて黄色い桶、死なないで欲しかったんだろう、と
くぐった暖簾は灰色にたなびいていて、どうして
こんな月の晩に人が死ぬんだ。
無関係だったろう、その闇の中心で。
無感情だったろう、その闇の中心で。
早く拾い集めろよ、月から落っこちてくるゴミ屑、おまえが早く
拾い集めろよ、月から落っこちてくる、おまえが、ゴミ屑を早く
マルボーロを食って死ねよ。
ー
「グレープフルーツ」
泣かないようにしたい。
焦げたカラメル色のまだらな鞄を持ってわたし、
想像しないようにしたい。
ゆっくり音楽が鳴っていた。
嗄れ声の男が、夢を見るときだけは無垢なのだと歌っているのが
きこえた。
ピアノの伴奏に合わせて体中の想像が
踊りだす。どこにも行かないんだってね、
きいたよ。
あなたは服を脱いだ。わたし、
それを見なかった。